筆者がこれまで経験した「ゲームディレクターとしての仕事」について、その内容はもちろん。楽しい点や辛い点、どういうことがあったのかを記載していきます。
ソシャゲ会社のゲームディレクターに限った話になります。コンシューマーゲームの会社とは多少違うかもしれませんが、似通った点は多いと思いますので参考までにしてください。
ディレクターはチームのリーダー
ゲームディレクターと聞くと、どんなイメージを持っているでしょうか?
なんとなく、偉い人、決定権がある人、リーダー、という印象が多いのではないでしょうか?
結論から言うと、どれも正解です。個人的には「プロジェクトの開発リーダー」というのが一番わかりやすい説明かなと思います。プロジェクトの開発責任者となり、成果物のクオリティ担保やチームの管理が主な仕事です。また、実際に企画・制作を行うポジションではなく、指示出しがメインとなります。
ゲームプランナーの仕事内容についてはこちらの記事を参照してみてください。

ではさっそくですが、ディレクターの主な仕事を書き出してみました。
- ディレクション
- 企画内容フィードバック
- 仕様内容フィードバック
- クオリティチェック
- 対外折衝
- 予算管理/ 人員管理
- 工数管理
- スケジュール管理
- etc…
ディレクション
まず、役職の名前にもなっているディレクション( direction )ですが、直訳すると【 方角、方向、指示、指揮、命令、といった意味】になります。チームの進むべき方針や、成果物の大まかな内容を決めることが多くなります。ゲーム制作はよく「航海」にたとえられますが、ディレクターは目的地点や進路を決める船長のようなものです。

よし!あの島に向かうぞ!航路は東から回り込むように進むぞ!
たとえば、これから作るゲームのジャンルやシナリオ(世界観)、 雰囲気、システム、テーマカラーなど、どんなものを作りたいのかを決めるのもこれに当たります。
注意したいのが、細かいところまでは決めないということです。(決めちゃダメなわけではないです)
大まかな方針を決めた後は、現場のプランナーに伝え、詳細を詰めてもらいましょう。全部自分でやってもいいですが、ディレクターには他にも重要な仕事がたくさんあるので、できるだけ自分自身の手を動かさないのが、うまく立ち回る方法です。その分、頭を働かせましょう。
どういうものにすれば面白いのか、ユーザーに受け入れられるのか、売り上げが成り立つのか、そういった側面で全体方針を決めていきましょう。
企画内容フィードバック
さて、大まかな方針をプランナーに伝えると、その内プランナーから企画内容の詳細が届きます。その内容を確認し、それで問題ないのか、どのように改善すればより良くなるのかチェックしましょう。まったく問題なければ仕様作成を指示します。
このフェーズはゲーム開発において、もっとも重要な工程の1つになります。なにしろ、ゲームの根底となる部分なのですから。
ゲーム開発は何人もの人がチームとなって進めていきます。もちろん、人によって考え方や感じ方は異なります。全員がバラバラな思想を持って進めていると、整合性や統一性のないものが出来上がってしまいます。なので、企画フィードバックの段階で、もし間違っている場合は修正を指示します。
ここで頭に入れておいて欲しいのは、決めるのはディレクターということです。
正直、だれも正解なんてわかりません。それが本当に面白くなるかなんて、予測不能なのです。
なので、ディレクターが責任を持って決めます。他の誰でもありません。むしろ、自信をもって決めて下さい。ディレクターに必要なのは溢れんばかりの自信です。チームのリーダーというポジションなのですから、いくら不安だろうと、「絶対これなら面白くなる!」という確固たる自信を周りに見せつけるように立ち振る舞いましょう。

ディレクターはメンバーから信頼されることが重要!不安そうにしていたら、メンバーも不安になるから、無理やりにでも自信たっぷりなフリをしよう。
そうすることで、チーム全体の士気が高まり一体感を持つことができます。
仕様内容フィードバック
さて、プランナーにOKを出した企画が仕様書になって上がってきました。ここから細かい仕様内容に対してフィードバックしています。
ここで重要なのが、「企画内容から逸れていないか」「実現可能か」「面白いか」です。
まず、最初に上がってきた企画内容から逸れたものになっていないかのチェックです。意外と詳細を詰めていく中で、到達すべき目的から徐々にズレていくことがあります。ディレクターとしてここを見逃してしまうと後が非常に大変です。

あれ?ここの部分、企画段階から大きく変わってるぞ…?軌道修正しないと!
実現可能か、という点については多少技術的な知識が必要になります。
とはいえ、ここはわからなければメインエンジニアと一緒に確認するのも良いです。
メインエンジニアとは
チーム内のエンジニアリーダー。実装の責任者となります。技術的なことでわからなければこの人に聞けばだいたいわかると思います。
ゲーム開発において、実現可能か、というのは実装的に可能かという意味ではありません。その仕様が他の仕組みと競合しないか、他の機能をつぶしてしまわないかという点。そして、工数やスケジュール、メンバーの技術力的に可能か、という意味になります。
ゲーム開発において、技術力が整っており、工数さえ確保できればなんでもできます。ですが、仕事においてスケジュールというものは付きまといます。仕様内容をチェックして、スケジュール内に収まるボリュームか、という点を確実にチェックしておきましょう。
クオリティチェック
これはプランナーの仕事内容にもあったものですね。ディレクターはプロジェクトの責任者になりますので、プランナーだけに任せず、ディレクターもクオリティチェックをしていきます。
どういった観点で見るか、というのはプランナーと基本的には変わらないので前回の記事を参照してください。
対外折衝
さぁ、これまでとジャンルが変わってきましたね。
対外折衝(たいがいせっしょう)とは、チーム以外の内部/外部とのビジネス的なやりとりになります。ゲーム開発を社内だけで開発している場合、社内だけで完結することもできますが、今の時代、他社と一緒に開発することも少なくありません。

プロジェクト以外のメンバーと業務を進めていく上で必要な交渉事は全て対外折衝だと思おう!
今回に関しては筆者が経験したときのシチュエーションをベースにお話ししていきます。
筆者がディレクターをしていた時は、とある大手企業との協業でゲームを開発していました。先方が発注側(クライアント)、こちら側が受注側となります。業界ではよく言われる、パブリッシャーとデベロッパーの関係ですね。
こちらから見れば、クライアントはお客様です。神様です。先方が言う事は絶対であり、基本的に逆らうことはできません。なぜなら、お仕事(お金)をもらっているから。
さて、ゲームを作っていく中で「企画」「仕様」という成果物が上がってくるのはお伝えした通りです。その内容については、必ずクライアントを通さないといけません。そこでのやり取りは、本来であればプロデューサーの仕事なのですが、筆者はやっていました。なぜなら、当時の会社はディレクターはプロデューサーを兼任しているような形だったからです。(とはいえ、どの会社でもディレクターも外部とのやり取りは必然的に存在します)
クライアントへの企画、仕様説明に関しては、社内で決まったことをそのままお伝えする形になります。そこでクライアントがOKを出せば、実際に開発スタートになります。
また、対外折衝では、予算周りの話も当然発生します。基本的には、営業段階でクライアント側からいくらなら出せるのか、いつ頃リリースしたいのか、という話が出てきます。それに対して社内で何人充てることができるのかを人件費と相談します。たとえば、予算1億円で1年後にリリースしたい、という話になった場合、1ヶ月に使える予算は「約830万円」ですね。
仮に社員の人件費が1人100万/1ヶ月であった場合、プロジェクトに充てられるのは1ヶ月8人までになります。均等に割り当てる必要はないので、繁忙期は多めにして、最初と最後は少なめにするという戦略も可能です。ここの詳細関しては次の項目「予算管理」にまとめていきます。
対外折衝では、社外とのやり取りだけではなく、社内でのやり取りも必要です。たとえば、クライアントとの契約書に問題ないか法務へチェック依頼をする場合や、上司に人員補充の依頼をするなど、様々です。基本的にプロジェクト外との連絡が対外折衝だと思って頂いて大丈夫です。
そんなことを日常的にやっていると、細かい企画や仕様を作るのは難しいですよね?
自分自身で手を動かさないというのは、こういったことが理由になります。
予算管理/人員管理
予算管理とは、プロジェクトで使うお金の管理のことです。プロジェクトが発足した場合、必ず予算が割り当てられます。その予算内で、なににいくら使うのかを決めていきます。
ゲーム開発において、どこにお金がかかるかというと、ほとんど人件費です。材料費も保管費も輸送費も必要ありません。
なので予算管理=人員管理といっても過言ではありません。
プロジェクトを進める上で、予算内でいつどの職種のメンバーを何人充てるのかを決める必要があります。先ほど上げた予算額で例を書いていきます。※予算やスケジュールは適当です。
- 予算:1億円
- 開発期間:1年
- 人件費:100万/1人
この場合、プロジェクト序盤、中盤、終盤で最適な人員割り振りをしましょう。
プロジェクトの序盤では、基本的にどんなゲームにするか企画をするフェーズになります。また、エンジニアは技術検証、デザインは画面モック等を作っていくので、本格的な開発まだ着手していません。
そのため、序盤のメンバーは少な目でも良いでしょう。
- ディレクター1人:100万
- プランナー1人:100万
- プログラマー1人:100万
- デザイナー:2人:200万
- 月合計:500万
- 期間:2ヵ月→1000万
- 残予算:9000万
- 残期間:10ヶ月
企画が固まるまではこのくらいの規模で良いでしょう。企画はだいたい2ヵ月間くらいで考えてみましょう。
企画が固まった後は、仕様詳細作成になり、できた部分から実装になります。この期間はゲームの根幹となる部分の実装なのでまだ人数はそこまで必要ではありませんがプログラマーとプランナーは1人ずつ増やすくらいでいいですね。期間は3か月くらいですかね。実際に動かしてみて、面白いかどうかをチェックします。いわゆるα版の制作です。
- ディレクター1人:100万
- プランナー2人:200万
- プログラマー2人:200万
- デザイナー:2人:200万
- 月合計:700万
- 期間:3ヵ月→2400万
- 残予算:6400万
- 残期間:7ヶ月
α版が完成し、クライアントOKが出た後は、いよいよ本格的な開発になります。ここから人員は一気に増えます。プランナーはどんどん機能の仕様を作っていき、プログラマー/デザイナーはそれに沿って作業を進めていきます。期間としては4か月くらいにしましょう。この期間はβ期間になります。
- ディレクター1人:100万
- プランナー4人:400万
- プログラマー4人:400万
- デザイナー:4人:400万
- 月合計:1400万
- 期間:4ヵ月→5600万
- 残予算:1800万
- 残期間:3ヶ月
さて、無事β版が通過した場合、最後のマスター版制作に移ります。この期間はすでに開発はほとんど終わっていて、あとはデバッグであったりデータチェック、ストア等への申請が基本となります。
デバッグ期間は一気に人数を減らすことが多いです。基本的にはバグの修正やデータの修正がメインとなりますのでそこまで人員は必要ありません。期間としては残りの3ヶ月です。
- ディレクター1人:100万
- プランナー2人:200万
- プログラマー2人:200万
- デザイナー:1人:100万
- 月合計:600万
- 期間:3ヵ月→1800万
- 残予算:0万
- 残期間:0ヶ月

無事予算内にスケジュールに遅れることなく開発が終わったぞ!
こうして無事開発が終了し、ゲームが世にリリースされます。今回は予算すべてを人件費とした場合の例ですが、デバッグやデザイン素材等を別の会社に外注するのであればそれぞれ費用が発生します。
また、開発の途中でなんらかのアクシデントがあり、人員を補充する場合は、その分赤字になります。クライアント要因のアクシデントの場合は、交渉次第では予算上乗せもあり得ますが、そこはケースバイケースですね。
なににいくらお金を使うのか、しっかりと計画を立てて管理していきましょう。
工数管理
工数管理はプランナーも行っていますが、ディレクターが行うのは全体の工数管理になります。基本的には、メインプランナー、メインエンジニア、アートディレクターといった各職種のリーダーが職種ごとに工数を管理しており、そのデータを元にディレクターが全体の工数を把握します。
もしなにか問題が発生した場合は、その対応策をディレクターから各職種のリーダーに伝達する感じですね。
しっかり体制が整った会社であれば、プロジェクトマネージャーという職種が存在し、工数管理やスケジュール管理を一括で行ってくれる場合もありますが、大手企業くらいですかね。中小企業ではまずプロマネは存在しません。
プロマネは先ほどの予算管理と並行で行うことが多いです。
スケジュール管理では、現在の進捗率を見て、このまま進めてスケジュール通りに完了するかをチェックする仕事になります。
スケジュールというのは、最初の立てた通りに最後まで行けることはほぼありません。必ず何かしらの遅延が発生して調整することになるでしょう。その時にディレクターとしての判断が問われます。

もしスケジュールに一切変更なく完遂するプロジェクトがあったとしたら、それは最初のスケジュールが多めに見積もりすぎているだけな可能性…!
遅延した際の判断としては「仕様を削る」「リリースを遅らせる」「メンバーに残業してもらう」のいずれかの方法を選択することになるかと思います。ゲーム会社においては「残業」という手段を取りがちです。それが本人のミスによって発生したものであれば仕方ないかもしれませんね。
ディレクターはクオリティを担保する責任者ですから、仕様を削るような判断はできるだけしないようにしましょう。予算の都合が付くのであれば、クライアントと交渉して、リリース延期に賭けるのも良いかも知れません。ちなみに筆者のプロジェクトでも遅延は発生し、リリースもしっかり遅れました(笑)
ただ、クライアントのほうも良いモノを世の中に提供したいという信念があったため、お互い合意の上で、です。なんと予算も出ました。素晴らしいですね。
最後に
さて、非常に簡単でしたが、僕が経験したディレクターのお仕事内容でした。実際にはプランナーの仕事もちょこちょこやっていたのと、今回記載している内容は全業務の50%くらいのボリュームなのでディレクターという仕事は非常に大変です。
ただし、良い面としては、やはりある程度は自分の思い通りにできるということでしょうか。イチプランナーだと、ディレクターの意向に沿って作ることが多いですからね。
ディレクター、ぜひ目指してみてください。
では、今回はこの辺にしようと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!これから書いていく記事も、よろしければ読んで頂けますと幸いです!
それでは、良いエンタメライフを!
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